Tomohiro Goto

Q1. 新中学1年生、新高校1年生にお勧めしたいこの一冊! を理由と共に教えてください。
 

A. 基本的には、中学生以降の読書は「自分の読みたいものを読む」が原則だと思っています。
それでもお勧めを一冊、と言われれば、その時は、僕自身が好きな本をお勧めするようにしています。教育的な観点から、他にもっとお勧めすべき古典的名著はたくさんあるのですが、自分が読んで本当に面白いと思ったもの以外は勧めるべきではない、というのが自分のポリシーです。

前置きが長くなりましたが、発表いたします。
新中学1年生では、男女によってお勧めする本が変わってきます。
まず、女の子には、梨木果歩さんの『西の魔女が死んだ』をお勧めしたいです。この本は、中学生の女の子の心の葛藤にとても丁寧に寄り添っていて、共感することが多いのではないかと思います。また、一人の人間として成長するということがどういうことなのかを、魔女であるおばあさんの言葉を通して、静かに指し示してくれています。僕はこの本を読むたびに、自分のなかの内なる自然が癒され、次の一歩を力強く踏み出していこうという気持ちになります。

男の子には、ルイス・サッカーの『穴 HOLES』をお勧めしたいですね。物語の構成、ユーモア、どれをとっても完璧な作品だと思います。思春期の男の子はなかなか物語の世界に没頭することが難しいのですが、これだけおもしろかったらいけるでしょ、と思います。目的も知らされずにひたすら穴を掘るという苦役を課され、最後には自分の運命に力強く立ち向かっていく主人公の姿は、もしかしたら社会の理不尽に気が付き始めているかもしれない中1男子の心に勇気を与えてくれるはずです。

新高1には、男女ともに、池澤夏樹の『スティル・ライフ』をお勧めしたいです。科学的な世界観と詩的な世界が見事に融合した、すばらしい小説だと思います。これから自分なりの物の見方を確立させようとしている子どもたちにはぜひ一読をお勧めしたい。こんな世界の捉え方もあるのか、と驚くはず。この作品を気に入ってくれた人には、同作家の『すばらしい新世界』もお勧めしたいですね。この世界で起きている様々な問題について、考えるヒントを与えてくれます。
 

Q2. 教育が変わろうとしている今、学校や保護者にはどのようなマインドチェンジが必要だと思われますか?


A.「将来の利益のために、今を犠牲にしてでも勉強しなくてはならない」ではなく、「今、夢中になって取り組めるものをとことん掘り下げることが、一生の財産になる」と考えること。
「勉強は我慢強さを養うためのものであり、楽しいものではない」ではなく、「楽しくて仕方がないものに時間を忘れて取り組むことが、本当の意味での我慢強さを育む」と考えること。

これに尽きると思います。

今の時代は、自分の興味・関心にしたがってその都度新しいことを学ぶことのできる人が評価される時代です。前者のような考え方は、受験というゴールを設定して、受験が終わればもうやらなくてもよいものとして学びを捉えていますが、そのような価値観のもとで教育を行うことは、子どもの一生を考えたときには大きな損失であると考えます。ぜひ、学校の先生や保護者の皆さんには、学ぶことそのものの楽しさを伝えていただきたいです。

Q3.これまでも多くの子どもたちと丁寧に、真剣に向き合ってきている後藤さん。子どもたちと向き合う時に、一番大切にしていることは何でしょうか?
 

A. アジェンダを持たずに向き合う、ということでしょうか。
大人の思惑ではなく、その子の発達のペースや内面のVoiceに寄り添って成長を支援することを何よりも大切にしています。

ただ、これは、ただ子どもの「あるがまま」の姿を肯定するとか、何でも子ども目線で考えるというのとは違っていて、そうした表面的に表れる子どもの姿のもっと深くにある「本質」を見抜く眼を養うことも、同時に求められると思うんです。

だから、子どもの声を尊重すると同時に「君にはもっと大きなチャレンジができるんじゃない?」とか、「それは楽な方に逃げてるだけだよね」というフィードバックを行うこともためらわないようにしています。

簡単なことではありませんが、その子の魅力を一緒に探求していく、よき伴走者になれればいいな、と思っています。


Q4. これまでで、最も自分の変化を感じた瞬間はどんな時でしたか?


A. 大学時代に恩師から次のようなアドバイスを受けたことが、自分を変える大きなきっかけになりました。

「大学時代というのは、自分のその後の人生の土台となる世界観を築くためにある。そのためには、自分の感性に合う思想家を一人選び、その著作に徹底的に向き合うといい。そうして、その思想家の心の内側から世界を眺めることができるほどに、その思想を深く理解することができたら、今度はその思想の上に、君自身の世界を築いていきなさい」

要するに、「巨人の肩の上に立つ小人は、巨人自身よりも遠くを見ることができる」ということですね。

この言葉を真に受けた僕は、大学生活を通してある一人の思想家に取り組むことになるのですが、その過程で経験した集中的な読書体験は、ほとんど人格が作り変えられるくらいの変化を与えてくれました。このときに、「自分にとって何が価値であり、何が価値でないか」を明確にすることができたことは、その後の人生を生きる上での大きな指針になっています。いま思えば、あれは自分のVoiceを探求することだったのだと思います。

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